鉄製の剣の柄頭(つかがしら)を保護する発泡スチロールの位置を調整する保存修復師。この剣は、紀元2世紀後半にローマ軍の兵士がよく使っていたタイプのもので、環状の柄頭を特徴とする。イスラエルのエン・ゲディ自然保護区の死海の近くの洞窟で最近発見された4本の剣のうちの1本で、現在はエルサレムにあるイスラエル考古学庁のジェイ&ジーニー・ショッテンシュタイン・イスラエル国立考古学キャンパスの空調管理された保管庫に置かれている。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
鉄製の剣の柄頭(つかがしら)を保護する発泡スチロールの位置を調整する保存修復師。この剣は、紀元2世紀後半にローマ軍の兵士がよく使っていたタイプのもので、環状の柄頭を特徴とする。イスラエルのエン・ゲディ自然保護区の死海の近くの洞窟で最近発見された4本の剣のうちの1本で、現在はエルサレムにあるイスラエル考古学庁のジェイ&ジーニー・ショッテンシュタイン・イスラエル国立考古学キャンパスの空調管理された保管庫に置かれている。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)

 9月6日、死海の近くの洞窟で古代ローマ時代の剣が4本発見されたとイスラエル考古学庁が発表した。剣は木と革でできた鞘(さや)の中で2000年近く保存されていて、その状態は驚異的に良好だという。

 剣は、エルサレムの南東に位置するユダヤ砂漠の洞窟の奥深くで、鍾乳石の壁の後ろに隠されていた。隠された時期は紀元2〜3世紀で、当時、この地域はローマ帝国軍とユダヤ属州の反乱軍との戦場であり、反乱軍の隠れ家でもあった。

 金属や、木や革のような有機物で作られた工芸品が、何百年も何千年も風雨にさらされながら残存することはめったにない。しかし、「剣の洞窟」と呼ばれるようになったこの洞窟の環境条件は、鉄製の刃を、鞘、つば、柄(つか)とともにそのまま保存した。

「剣の洞窟」で発見された、木製の鞘が残る3本の長剣のうちの1本。古代ローマ時代の長剣スパタは、もともとは騎兵用に開発され、後に重装歩兵部隊に採用された。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
「剣の洞窟」で発見された、木製の鞘が残る3本の長剣のうちの1本。古代ローマ時代の長剣スパタは、もともとは騎兵用に開発され、後に重装歩兵部隊に採用された。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
洞窟で発見された古代ローマ時代の長剣2点。長剣の柄とつばは木製で、革や縄を巻いてあるものもある。鉄製の刃の長さは約60cm。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
洞窟で発見された古代ローマ時代の長剣2点。長剣の柄とつばは木製で、革や縄を巻いてあるものもある。鉄製の刃の長さは約60cm。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)

 英レスター大学の考古学者で、『Rome and Sword: How Warriors and Weapons Shaped Roman History(ローマと剣:戦士と武器はいかにしてローマ史を形づくったか)』の著者であるサイモン・ジェームズ氏は、「最高の保存状態ではありませんが、これまでに発見された古代ローマ時代の鞘つきの剣としては最高のものです」と言う。

鍾乳石の後ろに隠された剣

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 4本の剣は、イスラエルのエン・ゲディ自然保護区で2023年6月に発見された。ヨルダン渓谷沿いの崖に点在する洞窟群は、1万年以上前から人々の隠れ家になってきた。

 イスラエルのアリエル大学とエルサレム・ヘブライ大学の研究者は、鍾乳石に書かれた古代の碑文を記録するために洞窟を訪れた際に、岩の間から鉄製の槍の穂と加工された木片が見えていることに気づいた。彼らがこの発見についてイスラエル考古学庁ユダヤ砂漠調査プロジェクトに報告すると、金属探知機を携えた調査チームが現地に派遣され、それまで調査されていなかった洞窟の上部の鍾乳石の後ろに隠されていた4本の剣を発見した。

 2017年以来、調査チームはイスラエル考古学庁遺物略奪防止部門の協力を得て、ユダヤ砂漠に点在する数百の洞窟を体系的に調査し、盗掘者に略奪される前に遺物を見つけようとしている。最近では、1万年前の籠や、60年ぶりとなる死海文書の新たな断片などが発見された。(参考記事:「死海文書の新たな断片を発見、「恐怖の洞窟」で」

紛争と混沌

 ナショナル ジオグラフィックは、発見から数日後にエルサレムで鉄剣を独占的に撮影した。場所は、ジェイ&ジーニー・ショッテンシュタイン・イスラエル考古学国立キャンパスの保存研究所だ。

ギャラリー:古代ローマ時代の剣を4本発見、驚異の保存状態、死海の洞窟で 写真9点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:古代ローマ時代の剣を4本発見、驚異の保存状態、死海の洞窟で 写真9点(写真クリックでギャラリーページへ)
長剣の木製の柄は革張りになっている。研究者たちは、剣に使われている木材や革や金属などの起源を特定し、当時のローマ帝国全域で武器がどのように製造されていたのかを解明したいと考えている。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
柄頭が環状になっている剣は、もともとはローマと敵対する人々が好んで用いていたもので、紀元2世紀にローマ軍に採用された。「剣の洞窟」で見つかった剣は、製造法を明らかにするため、今後X線撮影やCTスキャンを行うことになっている。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
柄頭が環状になっている剣は、もともとはローマと敵対する人々が好んで用いていたもので、紀元2世紀にローマ軍に採用された。「剣の洞窟」で見つかった剣は、製造法を明らかにするため、今後X線撮影やCTスキャンを行うことになっている。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
木製のつばに動物(おそらくハイラックス)の糞が付着した長剣。4本の剣は発見時のままの状態でイスラエル考古学庁の研究室に運ばれた。剣は、発見された洞窟と同様の環境条件のもとで注意深く洗浄され、精査される。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)
木製のつばに動物(おそらくハイラックス)の糞が付着した長剣。4本の剣は発見時のままの状態でイスラエル考古学庁の研究室に運ばれた。剣は、発見された洞窟と同様の環境条件のもとで注意深く洗浄され、精査される。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE)

 4本の鉄剣のうちの3本は、古代ローマ時代の騎兵隊や歩兵が使った両刃の長剣スパタと考えられている。長さは60cmほどで、それぞれに木製のつばと柄が付いているが、様式や技巧はまちまちだ。研究者たちは紀元1世紀後半から2世紀のものと推定している。

 4本目の剣の長さは45cmほどで、金属製の環状の柄頭(つかがしら)がついている。この特徴的なデザインは、もともとはローマと敵対する人々が好んで用いていたもので、ローマ軍は紀元2〜3世紀に採用した。

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